となると……殺されてしまう。
武司を殺して、その怒りが鎮まるかはわからない。
もしかすると、逃げた私を追いかけてくるかもしれないのだ。
その危険性があるなら、こうしてなんていられない。
立ち上がった私は、すぐに生産棟の北側の廊下に入り、東側へと走りだした。
本来ならこの階から逃げるべきだろうけど……東側はあと1部屋と半分。
今のうちに戻って、調べてしまいたかったから。
「こ、このボケがっ! ふざけんじゃねぇよ!」
武司の声が廊下に響く。
まだ殺されてはいないようだけど……。
「フーッ! フーッ!」
激しい「赤い人」の息遣いに、それも長くは持たないかもしれないと、頭のどこかで思い始めていた。
生産棟の東側、こちらからはふたつ目の、さっきまで私達が調べていた部屋に飛び込むと、日菜子の姿はなかった。
いや、前のドアの前でかがんで、ガタガタと震えていたのだ。
ひ、日菜子……怖くて動けなかったんだね。
さっきいた場所から一歩も動いてないもん。
私だって完全に「赤い人」に慣れたってわけじゃないけど、最初の頃よりはずいぶんマシになった。
十日を超える「カラダ探し」で鍛えられたというのはあるだろう。
だけど、日菜子はまだ四日目。
怖がるなという方が無理なのかもしれない。
「この……化け物……」
あれだけ威勢がよかった武司の声が、途切れ途切れになっている。