迷ってる暇なんてなかった。


迫る死を拒絶するように逃げだした私は、生産棟の南側へ。


日菜子は……よかった、まだドアを開けていないようだ。


もしかしたら笑い声に驚いて、ドアを閉めただけかもしれないけど、何だっていい。


「ひ、日菜子は続きを調べて!」


教室の前のドアをバンッと叩いて、私は必死に逃げた。


他の人達なら、それなりの距離を逃げられるだろうけ


ど……私じゃ無理!!


この距離ならせいぜい二階に逃げるのがいいところだ。


南側にある教室を通り過ぎて、階段まで走ろうと決めた時だった。


「明日香ぁ!! こっちに連れてきやがれ!!」


視聴覚室の方から、武司の怒鳴り声が聞こえたのだ。


校舎を震わすような笑い声が、武司にも届いたのだろう。


だけど、いったい何をしようと言うのだろう。


それでも、今の私にはその声の通りにするしかなかった。


生産棟の西側に向かう廊下を曲がると、その真ん中辺り。


「赤い人」を待ち構えるかのように、武司が立っていたのだ。


「く、来るよ!? 私のすぐ後ろ!!」


その言葉には反応も示さずに、私の後ろをうれしそうに見詰める。


武司が何を考えているのかわからない。