「日菜子は前のドアに。最悪どちらかだけでも逃げられた方がいいよ」


小さく……かすかに聞こえる歌声にさえかき消されそうな声でささやき、日菜子を移動させた。




「からだをちぎってあかくなる~」




声が少し、大きくなった。


生産棟の東側に「赤い人」が来たのだろう。


緊張感が一気に高まる。


どうして「赤い人」は、私達がいる場所に引きよせられるように来るんだろう。


完全に居場所がわかるのであれば、歌なんて唄ってないで、笑いながら走ってくるだろうけど。


そうしないという事は、「赤い人」の勘が優れているのか、それとも私達がいるという何かを感じているのだろうか。


なんて考えるのは今じゃなくてもいい。


今日は誰も死んでいないから、注意するのは「赤い人」だけ。


「昨日」と比べると、ずいぶん楽なように思えるよ。



「あしをちぎってもあかくなる~」



日菜子もドアの前に張りついて、いつでも逃げだせる体勢は整った。


……けど、どう考えてもこの状況じゃ私が先に見つかってしまう可能性の方が高いよね。