何も言わない日菜子の心はわからない。


そんな私達から少し離れた場所で……声が聞こえた。


「中島君! ダメだよ! そんな事やめなよ!」


「うるせぇデブ! 俺の邪魔をするな! こんな奴は死んだ方がいいんだよ! 『昨日』はこいつのせいで俺は死んだんだからよ!」


その声に、私は慌てて立ち上がった。


「昨日」までの武司じゃない事を、中島君は知らない。


もしも手を出そうものなら……。








そう思った矢先、必死に止めようとする小川君の手を振り払い、中島君は寝転ぶ武司の腹部を踏みつけたのだ。


その瞬間、「うげっ」という悲鳴が聞こえて。


武司が……目を開けた。










「……おい。テメェ、いったい誰に足を乗せてんだ?」













完全に戻った。


それはうれしい事なんだけど……この状況でそれは危険なんじゃないの?


腹部に乗った中島君の足首をつかみ、ゆっくりと起き上がる。


「えっ!? あ……は、袴田君!? よ、よかった、元に戻ったんだね……」


よくもまあ、そんな白々しい嘘が言えたもんだ。