そう言い終わって振り下ろしたハンマーが、包丁の刃を深くお兄さんの身体に突き立てた。
目の前で起こった異様な殺人に、私達は何もする事ができない。
止める事もできたけど……どうしてこんな事をするのか、それを知りたかったという私の勝手な思いがあったから。
「も、もういいでしょ……日菜子を狙っていたわけじゃないんでしょ? 日菜子のお兄さんが目的だったんだよね」
私がそう言うとその人物は立ち上がり、手にしていたハンマーを床に落とした。
その身体の細さは中島君なんかじゃない。
昨夜見せたあの涙は演技だったのかと、悲しくなってしまう。
「本当の事を話してよ……遥」
フウッと深い溜め息を吐いて、フードを脱いで遥が私を見た。
その目は、私に「カラダ探し」を頼んだ時のように冷たくてするどい。
「こんな世界、壊れてしまえばいいのよ」
日菜子のお兄さんと遥。
ふたりの過去に何があったのか。
この惨状を見れば、いい思い出ではない事は容易に想像できた。
「それで? 私を警察にでも突き出してみる? 明日になれば家の布団の中で目覚めるでしょうけどね」
私達を前にしても動じる事なく、遥はいつもと変わらない様子でそう言ってみせた。
「カラダ探し」をしている私達は、どんな事をしたとしても罪に問われない。
今日が終われば、何もなかった事になってしまうんだから。