ザクザクと腕や腹、喉を刺し、ひと思いに殺しはせずに、長く苦痛を味わわせているように見える。
「な、何だよこれ……」
捕まえる気満々で飛び込んだ高広も、その異様な光景に飲まれてしまったようで、一歩も動く事ができない。
「う、嘘……なんでお兄ちゃんが……なんでそんな事するのよ!! やめてよ!」
泣き叫びながら駆けよろうとする日菜子の腕をつかんで、私は引きよせてギュッと抱きしめた。
日菜子が……暴れないように。
「香山君。あんたが無理やりさせた体勢で殺される気分はどう?」
穏やかで……それでいて怒りに満ちたような声を出した人物。
日菜子のお兄さんは、喉を切られて声を出せないのか、苦しそうに足をばたつかせているだけ。
その声を私は知ってる。
私だけじゃない。
日菜子も高広も……。
「あんたはもう忘れたかもしれないけど、身体と心に刻まれた憎しみを、私は忘れてないからね」
そう言って、心臓の上に包丁の切っ先を当てて……。
ブンブンと首を横に振るお兄さんの顔を眺めながら、日菜子に振り下ろそうとしていたハンマーを、包丁に打ちつけたのだ。
コンコンと、ハンマーが包丁を打つたび、身体に刃が埋まっていく。
「あんたに無理やり犯された時、私もそんな表情だった?痛いよね? 私も毎日痛かったんだから。忘れるなんて都合がよすぎない?」