「先生! そのまま走れ! 俺が飛びかかる!!」


日菜子達に接近しながら、スライドドアを開けた高広が椅子から腰を浮かした。


本当に犯人に飛びつくつもりなのだろう。


日菜子の家の前、ハンマーを振り上げた黒い服の人物に飛びかかった高広は……。


慣性の法則というやつだろうか。


ハンマーを持った人を捕まえられずに、その前にいた日菜子に当たって地面に転がったのだ。


「せ、先生停めて!」


「あーもう! 忙しいな!!」


突然の急ブレーキで、開いたスライドドアが勢いよく閉まる。


助手席のシート背面に顔を埋めながらも何とか耐え、車が停まったと同時に私はドアを開けて外に飛び出した。


「高広っ! 日菜子っ! 大丈夫!?」


ふたりに駆けよると、そこにはもう怪しい人物はいなかった。


「い、いったぁ……って、伊勢君!? 明日香も……」


いきなり高広に飛びかかられて、状況を把握しきれていないのだろう。


今、自分が襲われそうになっていた事にも気づかずに、呆気に取られたような表情を浮かべていた。


「い、いてぇ……思いっきりすっちまった。明日香、家の中だ! あいつ、中に入ったぞ!」