「どうした明日香!」


小さな悲鳴を上げた私に近づく高広。


「い、今、棚の後ろから黒い手が……帰れって……」


つかまれた腕が、ガタガタと震え始める。


何か得体の知れないものに、私の身体もこれ以上行ってはならないと言っているのか。


帰りたい……けど、この棚の後ろに何かあるかもしれないなら、帰るわけにはいかない。


「伊勢君! この棚、移動させたような跡がある。もしかするとこれは……」


「動かしてみっか? このままじゃ帰れねぇだろ」


八代先生と高広もそれに気づき、私を少し下がらせると、ふたりで棚を挟むようにして手をかけた。


「先生、行くぜ。せーのっ!」


「ふぬぬぬぬ!」


ふたりが力を込めて、棚を動かし始めた。


大きな棚が……ゆっくりと動く。


ふたりが抱える棚が、私の目の前で向きを変えて。


その奥にあるものが徐々に露になる。


「何だよ……こんなでけぇ棚で隠されたらわかんねぇっての」


棚を移動させた高広が、フウッと息を吐きながら見詰めたそれは……。


黒く、歪んだものが隙間から漏れているのがわかるドアだった。