真っ先に倉庫に入った八代先生が、キョロキョロと見回しながら奥へと進んでいく。
私も、高広の腕につかまって部屋の中に。
棚にはこれと言ったようなものはなくて、誰かが隠れているような気配はない。
「見れば見るほどただの倉庫だよな。俺には何も感じねぇよ」
倉庫から黒いモヤが出たって言うのは、ただの偶然だったのかな。
怖い怖いと思っていたから、少し不気味でも何かがいると思い込んでいただけなの?
ここまで来て何もつかめなかったらどうしよう。
と、考えていた時だった。
部屋の奥から、かすかに風が吹いているように感じたのは。
「これ以上はここにいても仕方がないみたいだね。一度車に戻って、どうするか話を……」
「待って! 感じない? 風が……奥から吹いてるんだけど」
私の足に、シルクの布でなでられているような感覚がある。
さらさらとしているのに、まとわりつくしっかりとした感覚。
「そうか? 勘違いじゃね?」
高広も八代先生も感じない、かすかな風。
それがどこから吹いているのか確かめようと、私は倉庫の奥へと進んだ。