「行ってきまーす」
少しずつ変わった世界の中でも、変わらないものはある。
相変わらず世界はヒビ割れたままだし、玄関の前には高広の姿がある。
「おはよ、高広」
そう声をかけると、高広は私を見て、ニコッと微笑んだのだ。
……あれ?
何か違う。
いつもなら、照れたように「おう」とか言うのに、そんな素振りも見せない。
「ど、どうしたの? いつもとちょっと感じが違うけど……」
「そうか? 俺はいつもこんな感じだろ。早く行こうぜ」
確かに話し方は同じなんだけどなあ……。
朝の、「カラダ探し」を忘れさせてくれるこの時間だけが、私の憩いの時だ。
それなのに、照れた顔じゃなくて笑顔なんて……久しぶりに見た気がするけど、調子が狂うな。
学校に向かって歩きだした私達。
ふたりで話していても、武司の事が気になって、高広の話は上の空。
「……でよ、翔太のやつは美雪がいなくなって……って、おい! 聞いてるか!?」
私の目の前でブンブンと手が振られて、そこでやっと気づくくらいに。
ダメだ……武司が気になって学校どころじゃない。
「あのさ……私、また『カラダ探し』をさせられてるんだけど……」
唐突に言った私のその言葉に、高広はピタリと立ち止まって驚いたような表情を浮かべた。
武司があんな状態で、「赤い人」に殺されてしまうのは仕方がないと思う。