美紀が幸恵になっただけでは、私達には何の得もないのだから。
「美紀ちゃんは邪魔なんてしてないもん。遊んでるだけだもん」
そ、そうなんだ。
まあ、邪魔をしないと言うのならそれでいいんだけど。
「じゃあお姉ちゃんは行くからね。同じ場所に隠れててもダメでしょ?」
「うん、わかった。あ、そうだ。黒くて怖い人、早く追っ払ってね」
「が、頑張るよ」
そう言って、私は美紀がいるこの部屋から出た。
もう「赤い人」の歌声は聞こえない。
武司も西棟の方に行ったのか、この付近にはその姿はなかった。
振り返ってみると、美紀が笑顔で手を振っている。
私はそれに手を振り返して、ドアを閉めた。
不思議な感覚だ。
「赤い人」が私の方に向かっていて、見つかりそうだったところを、美紀が「赤い人」を生産棟に向わせて助けてくれた。
美紀はただ、自分の「呪い」の中で遊んでいるだけなのだろうけど……まさか助けられるなんて。
でも、これは絶好のチャンスだ。
「赤い人」と武司、壁の向こうにふたりがいる、絶体絶命だと思われた状況が、一転して安全になったのだから。