ピチャ……ピチャ……と、血の上を移動している音が聞こえる。
こちらに向かって歩いているのだろう。
その音が近づくにつれ、空気の色が変わっていくよう。
「まっかにまっかにそめあげて~」
真っ黒で、冷たくて。
毎日感じている、死の感覚に似ている。
それが……私の身体の表面をなでるように、ジワジワと迫っているのだ。
「お顔もお手てもまっかっか~」
声が……カウンターの向こうで止まった。
少しでも私がここにいると気づかれないように息を止めて、小さくなって。
「髪の毛も足もまっかっか~」
カウンターがかすかに揺れたのを、背中で感じた。
大丈夫、私に気づいたわけじゃない。
ただこの部屋の中を見ているだけと、ギュッとまぶたを閉じて、早くどこかに行ってと祈った。
「どうしてどうし……」
すると、なぜか「赤い人」の歌が止まり、ほんの少し……沈黙が訪れたのだ。
何が……起こったんだろう。
歌が止まって、足音も止まって。