速く、今だけでいいから、いつもより速くと祈って駆けだした。
手を伸ばして……何とかつかんだドアノブを回して。
転がるように飛び込んだ購買部室。
ドアを閉めたその時に、足音が二階の廊下に飛び出したのだ。
その音が、この部屋のカウンターの前で……武司を見てか、一瞬足音が止まり、中島君が声を上げる。
「どうしてお前が……ここにいるんだよ!!」
「キャハハハハハッ!!」
「赤い人」が廊下に飛び出し、狩り立てられるように再び走りだした足音が聞こえた。
でもそれは……。
『赤い人が、中島悠斗……正面に現れ……た。逃げてください』
「ふ、ふざけ……」
「ねえ……赤いのちょうだい」
校内放送が終わるより早く、中島君と「赤い人」の声が廊下に響いた。
ドンッ!という音が壁から背中に伝わってくる。
肉を引き裂く音、骨が砕ける音。
カウンターの下で震える私の耳に、自分がそうされたのとは違う、聞いた事のない不快な音が聞こえる。