教室の前の黒板に、それが当たったであろう血痕があるけれど、床を見ようという気にはなれない。
ムワッとむせ返るような血の臭いの中、私は小川君の亡骸に近づいて、大事そうに抱えるカラダ……幸恵の右腕を手に取った。
「ありがとう、小川君。絶対に棺桶に納めてくるから」
何度も嘔吐しそうになりながら、私は教室を後にした。
廊下に出て、今上がってきた階段から一階に下りればホールまではすぐだ。
一番下まで行きさえすれば、「赤い人」にしがみつかれながらでもカラダを納める事ができるのは実証済み。
助けがなくたって、今ならたどり着く自信はある。
だけど、今日はそれではダメだ。
誰にも見つからないようにホールに行ってカラダを納めた後、誰にも見つからないように生産棟に戻らなければならない。
階段を下りる前に、階下をのぞき込んで確認すると、とりあえずはそこには誰かがいるような気配はない。
「赤い人」の笑い声は遠くに聞こえているから、階段を下りる分には大丈夫だと思うけど。
もしも一階にいたとしたら……。