うさぎのぬいぐるみを乱暴に持った赤い少女が、一直線に私に向かって走ってきていた。


両手でナイフを握りしめたまま、私はそれを見ている事しかできなくて。


ドンッと腹部に感じる衝撃と共に、すでに背後に回り込んでいた「赤い人」を下敷きにするようにして仰向けに倒れ込んだ。












「あ~かい ふ~くをくださいな~」













歌が……しがみつかれて唄われ始めたけど、私は身体が萎縮して、抵抗ができなかった。


「赤い人」に殺されるという恐怖よりも、中島君にしてしまった行為の罪悪感の方が大きくて。














「し~ろい ふ~くもあかくする~」












私、何のためにナイフをポケットに入れたんだろう。


「赤い人」の気を引けるかと思って、何かわからない金属の部品も入ってるのに。












「まっかにまっかにそめあげて~」












小川君と遥が中島君を疑っていたから、どこかで私も念のためと思っていて、用意したんだろうな。











「お顔もお手てもまっかっか~」












だけど、私にはナイフを使う覚悟なんてできていなかった。


ただ、持っていれば何とかなりそうな気になっていただけなんだ。