二階の廊下に出る前に、廊下を確認しようと、壁際から顔を出そうとした時。
血で真っ赤に染まった手が……壁の角をつかんだ。
「ひっ!!」
不意に現れた赤い手に、思わず上げた声を止めようと口に手を当てたけど……この距離では絶対に気づかれてる!
心構えはしていたはずなのに足が震える。
さっき見た武司の姿が頭から離れなくて、死が目の前に迫っていることに、背筋に冷たいものが走る。
「赤い人」を見てしまったら、振り返る事ができないから、三階か南側に走って逃げなきゃ!
私の足では逃げられそうにない事はわかってるけど、ここでおとなしく殺されるほど私は諦めはよくない。
意を決して走りだそうとした時……。
「うおっ……も、森崎さん? 工業棟にいたんじゃなかったのか?」
少し走った私に声をかけたのは……中島君?
立ち止まって振り返ってみると、壁に手を突いてかがんでいる中島君の姿が、そこにあったのだ。
「な、中島君!? あれ? 『赤い人』は……」
また振りきったのか、その背後に「赤い人」の姿はない。