「社長、詳しいですね」


私は社長を見上げて言う。
こんな休憩スペースを知ってるなんて。ここに来るまで、フロアの案内図も見なかった気がする。


「たまに来てるからね」


社長は缶コーヒーを買い、私にもホットのお茶を手渡してくれた。


「彼女は僕のことがわからないけれど、会いにくることは無駄じゃない」


ああ、そうか。
この人の気持ちは、まだ静かに燃えているんだ。

社長は、もう十年以上、お義母さんに恋をしている。
叶うことのない片想いをしている。


「二月にいっぺんくらい来てさ、彼女の機嫌が悪くなけりゃ、車イスを押して散歩したりするんだ」


「そうなんですか」


「僕はズルいからね。彼女にフラれてるのは重々承知してる。だけど、彼女の脳が判断機能を失っているのをいいことに、夫の真似事をしてるのさ。妻を見舞う夫の役を勝手に演じてる」