私の表情から、何か感じたのかゼンさんが言う。


「おまえを蔑ろにしたつもりはない。むしろ、佐波が言い出してくれなかったら、俺はお袋の告知や治療方針については叔父夫妻に一任するつもりだった。実の息子のくせに、薄情だろう?」


運転席のゼンさんは、前を向いてしまう。後部座席のいる私には、その表情を見ることはできない。


「俺にはまだ勇気が足りない。お袋の全部を受け止める覚悟が足りない。今だって、怖い。お袋がどれほど弱っているか見るのも、病気の告知をされるのも、怖くてしょうがない」


ゼンさんにとってお義母さんはたった一人の家族だった。
お義父さんを亡くして以来、頼るものは互いだけ。

大事な大事な、唯一無二の存在だ。


そのお義母さんが、人格も思い出も失ってしまった時、彼はどれほど辛かっただろう。

そして、今また、お義母さんの身体を病気が蝕んでいるかもしれない事実。


彼は、それを受け止め損ねている。