日本列島が梅雨入りしたのは、あたしがおじさんを名前で呼ぶようになって1週間がたつころのことだった。今年は去年よりも5日ほど遅かったって朝のニュースで言っていた。

そのせいでこのところ毎日じめじめしているよ。梅雨は大嫌いだ、この時期はほんとにいろいろとやる気がなくなるんだ。

だから今夜は簡単に冷製パスタにしようかと考えていたのに、なぜか、あたしはキッチンに立つことすら許されなかった。


「――しゃぶしゃぶするから」


我が物顔でキッチンに立っているおじさんが言った。


「しゃぶしゃぶ? きょう?」

「そう。食材ももう買ってあるから」


そういえばきのう、夕方ごろに帰ってきてシャワーを浴びたかと思えば、おじさんはすぐにもう一度どこかへ出かけていたっけ。

あれは今夜のための買い出しに行っていたのかな。あたしはあたしで夕食の準備を忙しくしていたからぜんぜん気にも留めてなかったけど。煙草を買いに行ったものだとばかり思っていた。


どうやらしゃぶしゃぶをするってのはもう決定事項らしい。

いつか『今度しよう』と話していた『今度』が、まさかこんなに突然やってくるなんて思わなかったよ。


冷蔵庫から大きなパックを取りだすおじさんをぼけっと眺めた。ごつごつしている手が、あんまりにも大きなパックをふたつも持っているので、いったい何事かと思う。


「……そんなに、食べるの?」


思わず言うと、おじさんは動きを止めて、訝しげにあたしの顔をまじまじと見つめた。


「おまえって、自分の誕生日も覚えてねえの?」

「え?」


誕生日って?


「うそ、きょうってもしかして6月16日……?」


あわてて卓上カレンダーに目を移す。きょうって木曜だっけね? ダメだ。日にちと曜日の感覚がもうほとんどないよ。ついでに言うと時間の感覚も鈍くなってきてる。

まさか知らないうちにころっと歳を重ねていたなんて、それが華のセブンティーンになった日だなんて、こんなに切ないことはない。