時が時間を刻むのは、大切な人と一緒にいられるのは、生きていられるのは、当たり前なんだと思っていたあの頃の自分。
だから伝えなくてもいいと思っていた。
自分の思いも考えも、今胸のなかにある気持ちも、言えるときに言えればいいんだとそう思っていた。
けれど、それは全て違った。
僕の勝手な思い込みでしかなかった。
僕が今生きているこの瞬間は僕の人生のなかの大切な一部であり、もう巡ることのない一瞬だと気付いた。
毎日は毎日同じではなくて、大切な人との時間が永遠に続くことはない。
人はいつどこで亡くなってしまうか分からないから、今伝えないと伝わらなくなってしまう思いもあるのだと知った。
だからこそ今、僕はこんなにも素直に自分の思いを伝えることができる。
全ては、きみに会えたから───。
きみが再び僕に会いにきてくれたことで、僕は日常のなかに忘れかけていた大切なことを思い出すことができた。
「ゆりあ、僕に会いにくることを選んでくれてありがとう」
これは紛れもない僕の本心。心からそう思ってる。
僕の言葉に、嬉しそうに微笑んだきみ。
「私も、優太に会いにきてよかった」
そう言って花のようにふわりと頬を緩める。
───お互いが、お互いに会えてよかったと思える一日にしよう。
再会を果たしたあのときに交わしたその約束は、どうやら無事叶えられたようだ。
ゆりあが笑って、それからもう一度時計に目を映す。
僕もちらりとゆりあの時計を覗き込んだ。
───あと、一分。
時計の針は無言でそれを伝える。
まだ一分も優太といられるね、とは、もう言わなかった。
お互いに目を合わせ、微笑みあう。
「……優太」
「なに?」
「優太は生きてね。これからを生きてね。私と一緒にいた、17歳の優太とはさよならだよ。優太は生きる、18歳を生きるの」
僕を見て目を細めたゆりあ。
そこで初めて、僕は忘れかけていたもうひとつのことに気付く。
……明日は僕の18歳の誕生日だ。