中に入ると、雅人が受付で場所を聞いたところらしく、奥の第二病棟に駆け足で向かっていく後ろ姿が見えた。慌ててわたしたちも追いかけていく。

 渡り廊下を通って、曲がるとすぐにエレベーターが見えた。やってきたエレベーターに三人で乗り込むと、雅人はボタンを押す。

 やっぱり、三階だ。

 三階は確か……手術室があるはずだ。全てが、お父さんと一緒。あの日の光景と重なっていく状況にいつの間にか奥歯を噛んでいた。


 ここは、人の、いなくなる場所だ。


「きみちゃん!?」

 三階に着いた瞬間、雅人が叫びながらエレベーターから飛び出していく。

「雅人くん……」
「き、きみちゃんは……?」

 待合室のような場所のソファーに座っていたひとりのおばさんが、雅人の姿を見て立ち上がった。目は真っ赤に染まっていて、手にはハンカチを握りしめている。隣にいたおじさんも、おばさんに釣られるように立ち上がる。おじさんもまた、瞳が潤んでいて口を真一門に結んでなにかを堪えているように見えた。

 そして。
 壁際にもたれかかって立っているひとりの男の子。

 わたしたちと違う制服を着ている少年は、真っ青な顔をしていた。自分の体を抱きしめるように腕を組んでいる。グレーの制服の袖口が、かすかに赤く染まっている。

 誰、だろう。

 町田さんの兄弟、とかだろうか。それにしてはおばさんたちに話しかけることもない。そもそも彼女は一人っ子だと以前、雅人が言っていたような気がする。

「今、緊急手術中で……」

 おばさんが震える声でそう告げると、それ以上は言えなくなってしまったのか口元をハンカチで押さえた。雅人とおじさんが座るように施す。おじさんがそばにいたわたしたちにも座るように声をかけてきて、向かいの、少しだけ離れた場所にあるソファに腰を下ろした。ちらりと、そばにいた男の子の方を見たけれど、視線が合うことはなかった。

 おばさんの隣に座っている雅人はぎゅうっと両手を膝の上で握りしめていた。俯いているけれど、雅人が泣いているのがわかる。

 なのに、わたしはなにも出来ない。

 手術室はここから見えなかった。テレビで見るような手術中の赤いランプは見えない。それが余計にわたしを不安にさせる。

 おじさんとおばさんの状況から見ても、大変な手術になっているだろうことはわかる。どのくらい手術をしているのだろう。どんな手術なのだろう。一体、なんでこんなことになっているのだろう。

 数時間前、わたしは町田さんと話をした。
 ほんのちょっと前までは三人で笑って過ごしていた。