「でも、意識したりしない?」

 聖子の問いかけに、言葉をつまらせると同時に予鈴が鳴り響いた。

 それを見計らったように、直後に担任の先生が教室にやって来てみんなが自分の席に戻る。全員が席にいたのを確認すると、先生が夏休みの注意をいくつかあげた。危ないことをしないとか、行かないとか、お決まりの台詞で聞き流している生徒が大半だ。小学校時代から聞き飽きている。

 一通り話し終わると、一番嫌いな成績表を順番に渡される。

「代わり映えしないなあ」

 見つめながら苦笑をこぼした。

 ほとんどが3で、たまに4があるくらい。中学の時と対して変わらない数字の羅列。高校生活初めての成績は、感動もしなければ落胆もしなかった。



 中学生から高校生になって数ヶ月。

 思っていたよりも生活は変わらない。けれど、小さなことがいくつも変わった。

 中学はほとんどが同じ小学校の生徒だったけれど、高校では知らない子が多くなった。

 授業科目が増えた。国語だけだったのが、現国と古文にわけられて、理科も科学と名前が変わった。数Ⅰと、数Aというよくわからない区別。始めはちょっとテンションが上ったけれど、今となっては苦手な科目が明確になってしまったように思う。

 学校まで遠くなった。電車とバスに乗るようになって定期を持つようになった。授業も長くなって帰宅時間も遅くなった。

 高校生になるまではもっと劇的に変化するかもしれないと、期待と不安を感じていたけれど、正直思ったほどでもない。二年になるころには、今の状況が当たり前になっているのだろう。お父さんがいなくなったときのように。

 そんなふうに、雅人のいない時間にも慣れてしまうのかもしれないと思うと、ひどく寂しくなる。

 雅人とは環境が変わっても今までと同じように過ごせると思っていたのに、ひとりの時間が増えてしまった。変わらないままいられると思ったものが、変わってしまっていることは、苦しい。

 雅人は、そんなふうに思ったりしないのかな。わたしだけが、こんなふうに思ってるのかな。
 そうじゃないって、信じたい。