いたずらっ子のように舌を出す先生は、椅子に座った。


「食欲、ない?」


私がコクンとうなずくと「そりゃーそうよね」と納得している先生に、親しみを覚える。
医者なら「無理してでも食べなさい」と言いそうなものだ。


「それじゃ、今日は夜までにこのマドレーヌをひとつ食べるのがノルマね。
今は無理して食べなくていいわ。点滴もあるし」


無理強いをしない先生は、さすがに心の病気のスペシャリスト。


「さ、油売ってると叱られちゃう。また時間があったら覗くわね」


マドレーヌを持ってきただけではないだろう。
おそらく私の状態を観察しに来たのだ。


夏未先生が病室を出ようとすると、ドアをノックする音がした。