それからすぐに母が家に帰ったのは、夏未先生の指示だ。


少しずつカウンセリングをしたいからと説得してくれたのだけど、夏未先生は母がいると私が辛い感情を封じ込めなければならないことをわかっているようだった。


「失礼するわよ。夏未です」


誰だかわからない私に、先生はきちんと名乗ってくれる。


「莉子ちゃん、ちょっとこれ……」


夏未先生が白衣のポケットから取りだしたのは、マドレーヌ。


「ご飯、おいしくなかったでしょー」


クスクス笑う先生は「絶対にナイショだよ」と私にマドレーヌを手渡した。


「莉子ちゃんは、ケガなんだから病院食より好きなものをたくさん食べて元気になるといいわよ。
こんなこと言うと、栄養士さんに叱られちゃうけど」