「そうよ。泣くのもいいわ」


先生はティッシュをとって渡してくれる。


「イヤだ! そんなの、イヤ……」


それから声を殺して泣く私を、野上先生はじっと待ってくれる。
ただ優しく頭を撫で続けてくれるだけでなにも言わない。


涙はしばらく止まらなかった。


誰のこともわからないということは……学校に行っても、芽衣や千春ですらわからないということだ。
親友、なのに……。

それに、話しかけてくる人が誰だかわからないなんて……どうしたら会話できるの?
街でクラスメイトとすれ違っても無視するしかなくて、声をかけられても、知り合いかどうかすらわからなくて……。

考えれば考えるほど絶望に呑みこまれる。


そんな……そんなの怖くて、もう外を歩けない。