一時的な記憶喪失、という訳ではないんだ。
だけど、初めて聞く病名に首をかしげる。


「簡単に説明すると……そうね、これはなに?」


野上先生は自分の鼻を指差す。


「鼻、です」

「正解。それじや、これは?」


今度は口だ。


「口」

「そう」


先生は満足そうにうなずく。
そんなの当たり前じゃない。と思ったけれど……。


「長瀬さんは、顔のパーツひとつひとつがなにかは認識できる。
でも、そのパーツが組み合わさってできた“顔”は正しく認識ができないの。
だから、顔を見ても誰かわからないわけ」


わかったような、わからないような……。


「とっても不思議よね。朝来た先生と私の区別はついた?」

「はい。だって野上先生は女の先生だから」

「どうして私が女だってわかったの?」

「それは……」