「だけど、検査を待つ間、長瀬さんが不安を抱えたままなのは辛いかな、とも思ってる」
おそらく深刻な話をしているのに、野上先生はにっこり笑った。
「話しても、いいかしら?」
先生は最初から話すつもりだったのだろう。
だけど、それが安易な決断ではなく、私のことを考えた上でそうした方がいいと考えていることもわかった。
「……はい」
私がうなずくと、先生はゆっくり口を開いた。
「おそらく長瀬さんは“相貌失認(そうぼうしつにん)”という状態にあるんじゃないかと思う」
「そう、ぼう?」
全く聞きなれない言葉だ。
「相貌失認。フェイスブラインドとか、失顔症とも言われるわね」
フェイスブラインド?