それから慌ただしく傷口の消毒や検温などが始まって、あれこれ考える時間がなかった。
「莉子、調子はどうかしら?」
しばらくして、ひとりの人がやって来た。
「えっと……大丈夫、です」
この人は、誰だろう。
「お父さんね、とりあえず会社に行ったわ。
先生も意識が戻ったから、もう心配ないっておっしゃるし」
ということは、お母さん?
まだ体を動かすと痛みが走る私は、懸命に眼球を動かし、その人の顔を観察する。
だけど、どうしても母かどうかがわからない。
それどころか……昨日涙を流していた人と同一人物なのかも、わからないのだ。
ただ……その人が持っていたバッグに気が付いて、ハッとした。
あれは、母の日に私がプレゼントしたものだ。