「お父さんとお母さんを見ても、わからなかったということだよね」


その質問には、すぐに返事ができなかった。

ふたりを見て、父と母ではないと思った訳ではない。
違うかどうかもわからなかった。

純粋に誰だかわからなかったのだ。


黙り込んだ私に先生は、「うーん」と唸った。


「長瀬さん。事故などで一時的に記憶が混乱することはありますし、そんなにショックを受けないで、しばらく足の治療を頑張りましょう。
それに、うちの病院には優秀な心療内科医がいますから、一度カウンセリングを入れてみますね」


先生は忙しいようで、すぐに出て行った。


『そんなにショックを受けないで』と言われても、父や母がわからないなんて、普通じゃない。

先生の言う通り、一時的ならいいんだけど。