「哲哉先輩、なんでもないです。
河合先輩は転んだ私を助けようとしてくれただけです」
とっさに嘘をついた。
河合先輩に突き倒されたのは一目瞭然なのに。
それでも……哲哉先輩と付き合うことに罪悪感を感じている私には、そうすることしか思いつかなかった。
だって、河合先輩より哲哉先輩を好きという自信なんて、少しもなかったから。
「失礼、します」
河合先輩は、さっと逃げ出した。
哲哉先輩は苦い顔をして彼女の後姿を目で追いながらも、私に近寄ってきて、腕を引いて起こしてくれた。
「莉子、どうして嘘をつく?」
「嘘、じゃないです」
私の無事を確認した芽衣と千春がそっと離れていくのがわかる。
私は心の中で「ありがとう」とつぶやきながら、笑顔を作った。