「なによ、そのバカにしたような態度は。いい加減にしなさいよ!」
そして私は先輩に突き倒された。
だけど、怒りすら湧いてこない。
私には大きな罪悪感があったから。
哲哉先輩が好きなわけじゃない。
ただ、響ちゃんを忘れるために先輩の差し出した手を握っただけなのだ。
彼のことを本気で好きなこの先輩が怒るのも無理はない、と。
「なんとか言いなさいよ!」
「待て!」
すごい剣幕で私を見下ろす先輩を止めたのは、哲哉先輩だ。
彼の後ろには芽衣と千春の姿が見える。
「河合(かわい)、莉子になにしてる」
哲哉先輩が冷たい声で問いかける。
「あっ、あのっ……」
途端に顔が青ざめた河合先輩は、「な、なにも……」と焦っている。