「響ちゃん、早く!」
なかなか下りてこない響ちゃんにしびれを切らしてもう一度呼ぶと、「まだいるのか」ととぼけた声が聞こえてくる。
「まだって、失礼な。
おばさん、私の分のジュースも作っておいてくれたもん。
響ちゃんの分も飲んじゃうから」
朝食はもちろん家でとってくる。
だけど、彼を学校に引っ張っていくという任務を仰せつかった私は、新山家でフレッシュなジュースを飲むのが習慣になっている。
「まったく、朝からテンション高すぎる」
柔らかい癖のある髪をクシャッと掻きむしりながら、響ちゃんはようやく下りてきた。
「響ちゃん、ベーコン一枚ちょーだい」
「イヤだと言っても食うくせに」
「えへへ」
彼は冷たい口調だけど、切れ長の目が優しく笑っている。
反抗期なフリをしたって、ママゴトしていたあの頃から変わらない、優しい男なのだ。