「顔をあげろ」


命令口調でそう言った響ちゃんは、私の腕を強い力で捕まえる。
視線をあげると、彼の目は明らかに怒っていた。


「本当に、平松と付き合ってるんだな」

「そう、だよ。響ちゃんがとやかくいう資格なんてないでしょ!」


和代先輩とキスしていたあなたに、なにも言われたくなんかない。
私は響ちゃんの手を振り払って、学校を飛び出した。


雨は、上がりそうで上がらない。
だけど、細い細い雨の粒が私の涙を隠してくれるから、都合がよかった。


「莉子」


呼び捨てになった先輩は私を追いかけてきて、そっと傘を差し出してくれる。

先輩の傘に入った私は、それからなにも言えなかった。