彼女の振り向いた先に、平松先輩が見える。
「廊下が騒がしいと思ったら、平松先輩登場よ。
ヤバいわね。もう全員にバレバレだわ」
そんなことを言いながらも、千春の頬は緩んでいる。
私は先輩に小さく頭を下げて、すぐに向かった。
「莉子ちゃん、一緒に帰ろ?」
『長瀬さん』から呼び方が変わったのは、彼女になった証なのだろうか。
「はい」
「芽衣、千春……また明日」
「うんうん。先輩、莉子をお願いします」
「うん」
私を上機嫌で送り出した千春の後ろで、芽衣が私をじっと見つめている。
「ごめん。教室まで行って、迷惑だった?」
「いえ、そんなこと……ないです」
本当は千春の『全員にバレバレ』という言葉が引っかかっている。
当然、そのうち響ちゃんにもバレる。