「誰とも顔を合わせたくなくてここに来た」なんて、とても言えない。
「やっぱり、彼女にしたいな」
「えっ?」
「花のことが心配だったんでしょ? 優しいね」
どうしてそうなってしまったのか、はっきりと覚えていない。
気が付けば、平松先輩に抱き寄せられていた。
私のピンクの傘は、足元に転げ落ちている。
あまりに突然の出来事で、離れることすら忘れていた。
彼は片手で傘を差したままだ。
離れることなんて容易いことなのに。
いや、違う。
私は見つけたのだ。
響ちゃんへの思いを、断ち切る方法を。
「先輩、あの……」
「大切にする。だから……。ダメ、かな?」
私は小さく首を横に振った。
お願い。
響ちゃんのことを忘れさせて。
私を、助けて。