「話、聞いてくれる?」


とても穏やかな表情に戻った響ちゃんは、私の手を引いてベッドの前に座らせた。


ほんの少し前まで、私はここで彼とおしゃべりするのが好きだった。
といっても、私が一方的にしゃべっていたんだけど。

隣に座った響ちゃんは、一度大きく深呼吸してから、口を開く。


「親父に愛人がいると知って、相当がっかりした。
お袋は親父のために毎日せっせと弁当を作り、オペだと言ってなかなか帰ってこない親父を寝ないで待ってた。
なのに……愛人と会ってたなんて、許せなかった」


彼の言葉に頷く。
怒るのは当然だ。


「離婚となったとき、俺はお袋を支えなきゃって思った。
だけど……親父の後を継ぐのが目標だった俺は、同時に生きる目的も見失っちまった。

医学部に行くには、莫大な金もいる。
お袋が看護師として働いたところで、無理だと思った」