「ここ。ここでお医者さんごっこしててさ。
俺が患者で莉子が看護師で……」
突然クスクス笑い始めた彼は、その後の言葉が続かない。
「それで、なに?」
「熱が下がりませんと言ったら……それは恋の病です。こうすれば治りますって、俺にキスしたんだ。
まったく、とんだ看護師だ」
聞かなければよかった。
恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。
「今となっては、どこでそんなセリフ仕入れてきたんだよって思うけど……あん時はスゲーうれしかったんたぜ」
照れくさいのか、彼は視線を合わせようとしない。
「でもその時に決めたんだ。莉子のお婿さんになるって」
「お婿さん?」
「そう。莉子をお嫁さんにする、じゃなくて、な」
「プッ」
私が思わず吹き出すと、彼もケラケラ笑い出した。
「草食極まりない」
心から笑ったのは久しぶりだ。
笑いながら考えていた。
私のファーストキスも、響ちゃんだったんだ。