それからすぐに、私達の唇は重なった。
どれくらい経っただろう。
ほんの数秒だったのかもしれないキスは、私の不安な気持ちを全部吸い取ってくれた。
ついさっきまで、現実の厳しさに震え、それをすべてひとりで背負い込んで泣いていたというのに。
「皆と一緒じゃなくていい。莉子は莉子でいい」
唇を離した彼は額と額を合わせると、私にそう囁く。
「……うん」
この瞬間、私はやっとあきらめた。
“普通”に合わせることを。
それから再び重なった唇は、私にとびきりの幸せを運んできた。
「知ってるか? 俺のファーストキス、莉子だったの」
「えっ?」
知らない。
私、いつキスなんて?
響ちゃんは私の手を取り、部屋の隅に歩いていく。