フェイスブラインドと知ってから、どうやったら“普通”のフリができるかとばかり考えていたような気がする。

だから、自分から「顔を覚えられないので……」というカミングアウトも、よく知っている人にしかできないでいる。


「響ちゃん、私……」


心臓がドクドクいいだす。
呼吸が苦しい……。


「私……フェイスブラインドなんて、イヤだよ」

「莉子」


彼は強い力で私を振り向かせると、私の頭を抱えるように抱きしめた。


「イヤだよ。響ちゃんの顔、覚えてたいの」

「わかってるよ。莉子」


彼は私を強く抱き寄せたまま囁く。


「響ちゃんのことが、好きなの。
それなのに、明日、忘れちゃうの」


響ちゃんにこんなことを訴えたって、困るだけだってわかってる。

だけど……彼の前では本音が出るのだ。