手でごしごし涙を拭いて、もう一度見つめる。
薄い唇は、きれいなピンク色をしていて、笑うとすごく優しい顔になる。
この顔が、響ちゃん。
覚えて、お願い。
心の中で神に祈るように自分に訴えかけるけど、きっと……無理だ。
さよなら、響ちゃん。
そのままなにも言わずに背を向け、ドアに歩み寄った。
「行くな!」
だけど、ドアを開けられなかったのは、彼が私を後ろから抱きしめたからだ。
「莉子、行くな」
きっと私の考えなんてお見通しなのだろう。
だけど、私のせいで響ちゃんを不幸にできない。
「ううん。もうさよなら、だよ。
今まで支えてくれてありがとう。
残酷なことして、ごめんなさい」
私の肩に回る彼のたくましい腕にそっと触れてみる。
大好きだったよ。
あなたのすべてが。