私は彼の胸を押して離れ、後ずさりした。
私……あなたが好きだから、やっぱりここにはいられない。
道端であなたに会っても、気がつかないの。
カバンが黒から白に変わるだけで、こんなに好きな人を間違えるの。
いつか願いが叶ってあなたと結婚できても、子供の顔すら覚えられない、の。
涙で響ちゃんの表情が見えない。
せっかく、気持ちが通じ合ったのに、私には選ぶ道がひとつしか、ない。
「莉子?」
そんなに優しく呼ばないで……。
ギュッと目を閉じて、涙をこらえる。
そして再び目を開くと、響ちゃんの顔を真っ直ぐに見つめた。
目は切れ長で、眉毛は凛々しい。
鼻はツンと高くて、顎はシャープだ。
耳は……。
ダメだ。やっぱり涙が邪魔をする。