校門をくぐると、何度も何度も見たことのあるアンティークな花柄の赤い傘が目に入った。
和代先輩だ。


和代先輩は私を見つけると、首をかしげる。
いつも一緒の響ちゃんがいないからだ。


私は彼女に完全に負けた。

もちろん和代先輩は響ちゃんの"彼女"なのだから、最初から負けている。
でも……私には彼女の知らない響ちゃんとの思い出がたくさんあった。
なのに……あの空間ですら、彼女に奪われてしまった。


「芽衣。私、ちょっと花壇に寄ってくから、先に行ってて。
あっ、数学のノート、千春に渡しておいて?」


カバンからノートを取りだして芽衣に渡すと、彼女は少し困った顔をした。
落ち込んでいる私を心配しているのだ。


「大丈夫。ほら、早く行かないと千春、間に合わないよ」


今日ばかりは芽衣の前でも笑えない。