私はその電話を切って、もうひとつの番号を表示し、ボタンを押した。
――ブーブー
響ちゃんはスマホを手に持っているはずなのに、白いエナメルバッグの中から別のバイブ音がする。
「莉子……」
「どうして、もうひとつ鳴ってるの?」
「莉子、それは……」
眉間にシワを寄せた彼は、観念したかのようにバッグから今度はシルバーのスマホを取りだした。
「どうして……どうして嘘なんて!」
私のスマホの画面には“平松哲哉”という名前が表示されている。
私の手を握り続けてくれていたのは、哲哉先輩じゃない。
響ちゃん、だったのだ。