「莉子。阿部さんからメールもらって驚いたよ。
ふたりを置いて走って出て行ったって、どうかしたのか?」


こうして話しかけてくれるから、哲哉先輩だとわかるんだ。
哲哉、先輩だと……。


「ごめんなさい。先輩に早く会いたくなっちっゃた」

「うれしいことを言ってくれる」


先輩は笑いながら「“確保しました”ってメールしとく」とスマホを操作し始めた。

その様子を眺めながら、考える。
あの番号を鳴らしたら、どうなるのだろう。


「心配かけるようなことしたらダメだぞ」

「うん。ごめん」

「さて、帰ろ」


さり気なく出された左手を右手で握ると、彼はにっこり笑った。


九月になったというのに、蒸し暑さはちっとも抜けない。


「今日は雨降りそうにないね」

「そうだな。雨女がいるのにな」