「響ちゃん。朝、だよ」


次の朝、いつものように響ちゃんの部屋の前まで行って声を掛ける。


「莉子ちゃん、響のことよろしくね」

「はい」


ここまではいつもの光景だ。

おばさんが出勤してしまうと、リビングに下りて唇を噛みしめる。

あの部屋を開ける勇気なんてもう私にはない。
おばさんが変に思うかもしれないと、勇気を振りしぼって来たものの、ここまでが限界だった。


私は響ちゃんに黙って家を出た。

ひとりで歩く学校への道。
いつもは楽しい時間だったのに、周りの景色まで色あせて見える。

それに……ポツポツと雨まで降りだしてきた。


「あれ、莉子、ひとり?」

「うん」


学校の近くでたまたま出会った芽衣は、不思議そうに尋ねる。


「響先輩は?」

「うん。あとで来るんじゃない?」

「ケンカした?」


私は小さく首を振った。
私の落ち込んでいる様子に気が付いた芽衣も、それから口をつぐんだ。