「うん。急がなくっちゃ」

「鬼林がお怒りだからね」


鬼林というのは、化学の林先生だ。

私達の教室が遠いのを知っているくせに、ちょっとでも遅れると説教が始まる。
『生徒でウサばらししないでよ』と皆も言っているくらいだ。


理科室に行くにはたくさんルートがある。
渡り廊下はいくつもあるし、階段だって。

だけど、なんとなくいつも行くコースは決まっていて、私達は今日もそのルートを歩いていた。


渡り廊下を理科室の方に向かおうとすると、一瞬芽衣が足を止める。


「芽衣? どうした?」

「ううん。なんでもない。
教室にノート忘れたかと思ったけど、持ってたわ」


芽衣はそう笑った。


「ささ、行こう」