帰りの電車でも、彼は私の手を握り続けた。
辛い出来事があったのは事実だけど、行けてよかったとも思う。
こうして勇気を出して新しい一歩を踏み出さなければ、できないこと、困ることすらわからない。
こうしてポジティブに考えられるのは、隣に哲哉先輩がいてくれるからなのかもしれない。
きっと彼がいれば、また助けてくれる。
そう、思えるから。
「莉子、また明日」
「先輩、ありがとう」
家まできちんと送ってくれた先輩は、さわやかな笑顔を残して帰っていった。
先輩が笑っていてくれるから、今日の出来事だってきっと乗り越えられる気がする。
ずっと深刻な顔をされていたら、きっとそうは思えない。
自分の部屋に戻ると、窓から先輩が帰る方角を見つめる。
「あの黒いシャツは、哲哉先輩」
私は確認するようにそうつぶやきながら、彼が見えなくなるまで眺めていた。