だけど……好きな人の顔を知りたいという気持ちを、そんなに簡単には諦められない。


先輩のことは、もう見分けられるんじゃないかと、ほのかな期待もしていた。
声のトーンも、大きな手の温もりも、体に刻みこんだはずだった。


それなのに……あっけなく間違えたのだ。


「先輩、ごめんな……」

「莉子は悪くない」


私の背中に回した手に一層力を込めた先輩は、きっぱりと言い切る。

抱き寄せられる力があまりに強くて、骨が砕けてしまいそうなくらいだ。


「でも、私……」


あなたと他人の区別すらつかないの。
こんな彼女……最低、だ。


「もうなにも言うな」


背中に回った手の力が緩んだかと思うと……先輩の手が私の肩に置かれて……。

彼の温かい唇が、私の唇を覆った。