「うわっ」
いきなり三頭のイルカが飛び跳ねて、ショーは始まった。
トレーナーの指示する通りに数々の演技をしてくれるイルカたちは、とても気持ちよさそうに泳いでいる。
「莉子、俺、ちょっとトイレ行ってくるよ。
ここに座って待っててくれる?」
「うん」
イルカショーの前に、私はトイレに入った。
きっと恥ずかしかっただろうに、女子トイレの前で私が出てくるのを待ち構えていてくれた先輩が「莉子」と呼んでくれたから、困ることはなかった。
だけど、先輩は行かなかった。
人が溢れるあの場所で、私をひとりで残せなかったのだと思う。
だけど、席に座っているだけなら、ずっとハードルは低い。
きっと先輩はトイレも我慢してくれていたのだ。