「先輩、ごめんね」
「なにが?」
とぼけたような口ぶりでコーラを一気に喉に送り込む先輩は、ベンチでも片手は私の手を握っている。
「だって、私……先輩の顔ですら覚えられないんだよ?」
「そんなの莉子のせいじゃないじゃないか。
莉子、俺がイケメンだからってだけで付き合ってくれたの?」
私の顔を覗き込んで茶化す先輩は「自分でイケメンって言ってるよ、俺」と笑う。
「顔がわからなくても、莉子への気持ちは変わらないよ」
「ありが、とう」
『顔はわからなくたって、絶対に変わらないものだってあるのよ』という夏未先生の言葉を思い出していた。
父と母が私をずっと愛してくれるように、先輩も私をずっと好きでいてくれるのかな……。